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YASUから学生へのメッセージ

'Science is fun. Science is a kind of hobby.'

皆さんはどのようにしてサイエンスに興味を持つようになりましたか?
サイエンスは元来、自分の身の回りの事象-宇宙、自然、ヒトを含む生物など-を理解するために経済的に豊かな貴族などが学者を援助して研究させたのが始まりだと考えられています。宇宙とは何か? 地球とは何か? 電気とは何か? ヒトはどのようにして生まれるのか? 病気の原因は何か? 霊魂は存在するのか? このような知的な好奇心がサイエンスを伸展していく大きな原動力となってきました。生き生きとした知的好奇心がいいサイエンスをするのに必須であることは現在もかわりません。そしてサイエンティストにとってサイエンスに対する興味は他人から無理矢理押し付けられるものではなく,自分の中から溢れ出てくるものであることが大切だと私は思います。その点、研究は趣味みたいなものだといつも感じています。もちろん世界との競争に勝つために一生懸命に働くことはとても重要です。でも、心のどこかに余裕を持ち、真実を求める新鮮な欲求を持ち続けることが、ほかの研究者から見て"面白いな"と思わせるサイエンスをするのに不可欠なのです。

サイエンスの楽しさ

私たちの研究室では、主に細胞生物学や生化学的手法を用いて癌の研究をしています。正直申しまして、日々の生活は一見単調な実験の繰り返しです。Negative dataの連続でウンザリすることも少なくありません。でもまれに、心を震わせるような非常に面白いデータが出ます。それは、考えていた仮説と一致するデータの時もありますし、全く予期しなかったデータの時もあります。「なんじゃこりゃ?」と出てきた結果の意味がよく分からず首をひねる時もあります(往々にしてこういうデータが一つのプロジェクトの始まりになることも多いのです)。「これはすごい!大発見だ!」と叫びながら踊りたくなることもあります(往々にしてチョンボのことも多い)。データとの出会いは一期一会。様々なデータに心ときめかす瞬間、それがサイエンスの醍醐味なのです。
また、ベッドの上で、またはトイレの中で、あるいは満員電車に揺られながら、ふとアイデアがひらめく時があります。「もしかしたら、この実験をすればうまく行くのではないか?」「ひょっとしたらこういうメカニズムになっているのでは?」「ようやくあのデータの意味が分かったぞ!」実験や思索に日頃から一生懸命に没頭している人には、こういう思いつきが降臨することも多いのです。"世界で今、自分だけがこのアイデアを持っている"という興奮、いやあもうたまりません。楽観的である人、色々と空想(あるいは妄想)することが好きな人は特にこのような楽しさを多く味わうことができるでしょう。 このようにサイエンスを楽しむことはサイエンティストの特権です。サイエンスは決して難行苦行でも、眉をひそめて耐え忍ぶものでもありません。私の研究室では、学生の皆さんにサイエンスの楽しさをできる限り伝えていきたいと考えています。

毎日がオリンピック

サイエンスのもう一つの醍醐味は「国際的」であることです。『発見』が世界で初めてのものでなければ、あまり意味を持たないのです。そう、世界で一番目のものだけが大きな評価を受けるのです。データが出たとき、「これを見つけたのは僕(私)が世界で初めてかも知れない」という優越感。いやあ、これまた、たまりません。そう、毎日がオリンピックなのです。
論文を発表した後、見知らぬ人から「素晴らしく面白い研究だ」というメールを受け取ることも少なくありません。国際学会で自分たちの出した論文について質問や賛辞を多くの人から受けることもあります。自分たちの発見が、自分が直接会わない世界中の人々に影響を与えることができる、これがサイエンスの素晴らしい点だと思います。
でも、世界で一番になることは、もちろん容易なことではありません。まず第一に発想が斬新である必要があります。また、効率よくしっかりと働いて、世界中の競争相手に先んじる必要があります。そのためには、(超)一流の頭脳と一流の技術を身につけなければなりません。学生といえども「プロ」にならなければなりません。私の研究室では、そのために必要な教育をしっかりと、そしてじっくりと与えていきます。オリンピックに勝つのは難しい、でも少しの幸運としっかりとした環境とあなたのたゆまぬ努力で可能となるのです。

若いときにしっかりとした基礎をつける大切さ

学生時代にレベルの高い論文を書くことは大切なことです。でも、それ以上に重要なのは、『将来に独り立ちする能力を身につける』ことです。そのためには、しっかりとした技術と高い思考能力を備える必要があります。
まず、テクニックですが、私の研究室では基本をみっちりと教育します。研究室で確立したプロトコール、テクニックを反復して、いつもきっちりとした信頼できるデータが出るように教育します。我流は絶対に許しません。私の大学院時代の恩師の高井義美教授はいつも私たちに言っていました。『自分のオリジナリティはサイエンスのアイデアに使え。実験方法をいじることに使ったらあかん』本当にその通りだと実感します。出来の悪い学生ほど、確立したプロトコールをちょっと変えて楽をしようとします(3回washすべきところを2回だけするなど)。そういうことをすると、他の人と違うデータが出たときにどこが違ってそうなったのか全くわからなくなってしまいます。優秀な学生はそういう無駄なところには頭は使わず、しっかりとコントロールをとり、きっちりと実験をして、次の実験計画などもっと大切なことに頭脳を使います。基本的な実験が条件反射のようにできる、それは野球のキャッチボールなどのスポーツにも通じる基本中の基本なのです。また、将来に備えて、色々な技術を身につけることも大切です。ずっと同じ実験ばかりするのでなく、あるテクニックがしっかり身に付いたら、ほかのテクニックも学び、色々な実験を経験できるように教育したいと思います。
しっかり考えること。これが、日本の学生教育で看過されがちな点だと思います。「実験計画とか難しいことはスタッフが考えるから、学生はそれに従って働けばいい」こんな研究室があるという噂もいくつか聞いたことがあります。確かに論文を出すためには効率のいいやり方かもしれませんが、それでは、学生に考える能力は身に付かず、将来独り立ちしてやっていくことは難しくなるでしょう。もちろん、一生懸命実験をすることはとても大切なことですが、それと同じくしっかり考えて、今自分がやっている実験がどのような意味を持つのか、世界の中でどのように位置づけできるのか、プロジェクトをさらに発展させるにはどのような実験を組めばいいのか、など色々と考えて考えてまたまた考えて、他の人とディスカッションしてその上さらに考えることがとても大切です。それと同じく、自分の研究している分野についていっぱい論文を読んで、そのうえ自分の分野以外にも興味を持ってしっかり勉強する。若い時の勉強は一生の肥やしになります。私の研究室の学生には、私なりの『思考法』を伝授していきたいと思います。

 

なんて、ここまでとても偉そうに書いてきましたが、私もまだまだ未熟なチンピラですし、未だ成長期のまっただ中にいると感じています。研究室の諸君と切磋琢磨して、皆でぐんぐん成長していきたいと切望しています。
若い諸君の柔らかで面白い発想、大いに期待しています。アクティブに、情熱的に、プロフェッショナルに、冷静に、そして楽しく一流のサイエンスを展開していきましょう。諸君の参加を心待ちにしています。