YASUの呟き No. 07
海外での学会を楽しむには
この呟きもヤスラボの学生・スタッフに向けた私の偏見と私見に満ちた戯言です。ラボ外の方は軽い気持ちで読み流していただければと思います。
まず、学会に参加する意義ですが、学会に参加する主な目的は二つ。自分の仕事をアピールすることと知り合いを増やしてネットワークを広げることです。ラボヘッドになるとunpublishedな情報を得ることや共同研究先を探すという目的も出てくるけれども、学生のレベルではそれはまだ必要ではありませんね。知識を吸収するため、という目的のみで学会に参加することは私のラボからは許しません(休暇を取って自費で参加するのは可)。知識を得るには論文やレビューを読む方がよっぽど手っ取り早いからです。ですから、学会に参加するのは最低ポスターで発表するデータができてからになります。
さて、海外の学会で最も日本人を悩ませるのは、他の参加者とどのようにして会話をして、仲良くなるかということでしょう。実はこの原稿は2011年ゴードンカンファレンス(Cell contact & adhesion)に参加した帰りの飛行機の中で書いています。私はこの分野で数年間研究しているため学会の参加者にも知り合いが多く、昔からの友人たちや知り合いの研究者と久しぶりに会って話の花を咲かせるのは研究者としての醍醐味の一つだと改めて思いました。また、新たに知り合いもたくさんでき、新規の共同研究や研究室訪問の招待など研究や人生の楽しみの次元が広がったと実感しました。でも、振り返ってみると、最初に海外の学会に参加したときには知り合いは一人もおらず、どうしたものかと大変心細い思いをしたものでした。そこで、まだ海外の学会に参加した経験があまりない若い人にちょっとしたアドバイスをいくつか教示したいと思います。特に、食事の際にテーブルに座って楽しく会話をするコツを伝授します。これらのアドバイスが少しでも助けになり、国際的にネットワークを広げることのできる社交的でアクティブな研究者が私のラボから輩出されることを心から祈っています。
① 学会を選ぶ
まず大切なのは、適切な学会を選択することです。自分の研究テーマに近い小規模あるいは中規模な学会、その中でも参加者が一堂に会して食事を一緒にとるタイプのものをお勧めします。大きな学会に参加しても、トークを受動的に聞くことが主になり、他の人と知り合う機会がなかなか得られません。Gordon conferenceは朝昼晩の三食を参加者が自由にテーブルに分かれてとるので、さまざまな研究者と会食を楽しみながらじっくりと話すことができる僕が最も大好きな学会です。
あと、医学関係の学会を除くと欧米では服装は一般にかなりラフです。背広やネクタイは必要ないばかりか浮いてしまいますので気をつけましょう。僕はいつもTシャツとGパンです(発表時も)。
② 一人で行動する
海外の学会に参加するのは一人では心細いのでどうしても同じ研究室の人と一緒に行く人が多いかな。でも、日本人が2~3人で固まっていると(そして特に日本語でお互いに話していると)他の人から話しかけてもらう確率は限りなくゼロに近づくでしょう。もし他の日本人と一緒に参加しても、ポスターをみる時や食事をとる時は別々に行動しましょう。
③ 日本人テーブルを作らない(に加わらない)
英語があまりうまくない日本人にとって外国人の隣に座って一定の時間一緒に食事をとることをストレスに感じる人はとても多いと思います。ですから、学会で日本人が固まって食事をとることが多くなるのも理解はできます。でも、それでは外国の友人を作るチャンスを逃すことになってしまいますよね。もちろん、学会に参加している日本人の方とも仲良くなることも大切です。でもせっかく海外に来ているのですから、なるべく外国人の横に座ることを心がけましょう。
④ まずはレベル(身分)の近そうな人の横に座る
グループリーダーの中には、同じレベルかそれより上のレベルの人と知り合いになって自分の研究やキャリアにプラスにしたいという強いモチベーションを持って学会に参加している人も稀にいます。そのような人は、自分より身分が低い人学生などと話すのを時間の無駄と考えます(時にそのような人がいますねえ)。グループリーダーらしき人の隣に座るときは(私のように)気さくそうな人の横を選びましょう。でも、身分が上の人を選ぶよりも、学生なら学生、ポスドクならポスドク同士の方がお互いの境遇を比べたり、ボスの悪口を言い合ったり、より多くの話題を共有できるでしょう。また、仲良くなった同じ世代の人は数年後に再会した時も自分と同じ身分であることが多く、再びお互いの境遇について話が弾むこととなります。私もポスドク時代に知り合った当時ポスドクだった友人の多くが今は自分のラボを持っており、今度はグラントをとる困難さやラボ運営の難しさについての愚痴など以前とは異なるトピックについて話が盛り上がるようになりました。同世代の友達を作る。これは学会を今後も長く楽しんでいくための大切なポイントです。
⑤ まずこちらから話しかける
学会に一人で来て寂しい思いをしているのはあなただけではありません。知り合いのいない人は誰もが頼りなく感じているものです。そんなときに話しかけられたらホッとしますよね。ポスターや食事のときには一人でいる人のそばに行って、こちらから話しかけましょう。これは本当に大切な点です。受け身で話しかけられるのを待っていてはいけません。黙っているうちに他の人同士が親密に話を始めるともうあなたは一人で置いてきぼりになってしまいます。(少し勇気を振り絞って)まず右手を差し出して「Hi, I am Yasu.」などと話しかけてにっこり笑いましょう。ほとんど100%の確率で向こうも微笑みながら握手をして名前を名乗ってくれます。また長い名前の人は短縮系を使った方が覚えてもらいやすいです。僕は恭之なのでYasu。健太郎ならKen、信二郎はShin、権佐衛門ならGonというように。その次の会話の続けるパターンとしては、「Where are you from?」と聞いてお互いの国・都市や研究所について一通り話してから「What are you studying?」と聞いてその人がやっている研究について色々と話を引き出していきます。ほとんどの人は自分の研究について話したくてウズウズしていますし、こちらも色々な情報を得ることができ充実した時を過ごすことができます。このときに重要なのは色々と質問を挟んで会話を展開させること。いい質問ができないと話は弾まず、向こうの人も話していて面白くないでしょう。あなたが日頃から自分の研究テーマ以外にも興味を持って幅広く勉強しているか、セミナーなどで積極的に質問しているかが、こういう機会に生かされます。また、いきなり海外で他人に話しかけるのはハードルが高いと思う人は、日本の学会や研究者の集まりで、積極的に知らない人にどんどん話しかける習慣をつけましょう。サイエンスの色々なトピックについて長時間話すことができる能力はいずれにせよサイエンティストとして非常に重要な素養ですから。その他、サイエンスの制度の違い(日本特有の講座制について、ポスドクの期間、博士号取得には何が必要か、グループリーダーになる困難さなど)、研究費獲得あるいは論文を通す難しさなども話題の弾むトピックですね。
⑥ 雑談を楽しもう
でもできればサイエンス以外の雑談も楽しみたいですよね。政治、経済、スポーツ、旅行、学生の気質、ボスが難しい人であること、将来の不安、家族のこと、宗教、結婚式のスタイル、国民性の違い、などなど話題は色々とあり得ます。でもこのような雑談を楽しめるかどうかは、結局あなたの人間性や話題の豊富さにかかってきますよね。日頃からサイエンス以外にもアンテナを色々と張って、多岐にわたる会話を楽しめるようにしておきましょう。特に、日本のことを英語で説明できることは本当に大切です(これは会話として聞き取る必要もないので楽ですよね)。自民党、民主党、内閣、文科省、儒教、原子力発電所などなど会話で使いそうな英単語はカバーしておきたいものです。また、日本のことを英語でうまく説明できるトピックをいくつか持っておきましょう。僕がよく使うのは、「儒教が日本の国民性に与えた影響」、「御見合いのシステムについて」、「日本人の英語が下手なのはなぜか」、「日本の政治は今後どうなっていくのか」、「日本人と社会の関係」、「通勤電車の混雑」、「温泉の楽しみ方とエチケット」などです。結構日本のことをおもしろおかしく話せるトピックは転がっているものです。
また、海外の学会に行くと様々な国籍の人が集まってきます。とても魅力的な異性もちらほらいます。海外の学会の素晴らしいところは、自分のタイプの異性に積極的に話しかけても全く不自然に見えないことです。(特に独身の人は)可愛い女の子(あるいはイケメンの男性)にどんどん話しかけましょう。次の学会で再会したときに、キスとハグができるようにしっかり仲良くなっておきましょう。
⑦ 最後は絶対に踊ろう!
学会の最後に待っているのはダンスです!バンドの演奏やDJの選曲で老若男女が踊り乱れるフィナーレ。いつも結構な盛り上がりを見せます。これは、学生もポスドクもグループリーダーも一緒になって一体感を感じることのできる素晴らしいひとときです。なのに、これに参加しない日本人が多すぎる!踊り方に何も定型はありませんし、ただピョンピョン飛び跳ねているだけの人も訳のわからない動きをする人も。なんでもありなのです。ずっとカンファレンスで一緒に時を過ごしてきた人たちと是非、最後の熱いひとときを過ごしてください。汗と熱気に溢れた国際学会のフィナーレはいつも僕の大きな思い出になっています。
色々と書いてきましたが、これまで僕もうまくいかなかったことが色々とありました。有名な教授の横に座ったものの全く会話が盛り上がらず苦労したこと。ジョークが完全にスベッってしまい会場の温度が下がったこと。相手の英語が早口で全くわからず飯がのどを通らなかったこと。でも、苦労したことほど後で思い出になって残るものです。少しうまくいかなかったことがあっても、めげずに自分に鞭打ってドンドン話しかけていきましょう。
サイエンスとは国際的なもの。そしてそれを最も実感できる場が海外での学会なのです。海外の学会をより楽しむには、英語力、サイエンスの能力、会話のトピックの豊富さなど、総合力が大切になってきます。日頃からそのために、努力を続けてください。そして国際学会で発表するのにふさわしいデータをどんどん出してください。頑張れ!
updated : 2011/07/04