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YASUの呟き No. 08

北大で出会った偉人・変人(1)
北の大地で邂逅した坂本竜馬の末裔―坂本 洋典(北大・地球環境科学研究院)

 私は坂本竜馬の大ファンである。学生時代に、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を読んで、「ああ、なんてかっこいい男なんやろう。僕もこういう人間になりたい!」と強い憧れを抱くようになった。剣の達人であったのも素敵だが、私が傾倒したのは、彼が周りに流されずに、自分のやりたいこと、大切だと思うことに大きな情熱を注いで突き進んだ点である。それと、懐の深い、人を包み込むようなおおらかな性格。「尊王攘夷」「佐幕開国」などで殺気立っていた志士達も彼の人懐っこい笑顔とその人柄に魅了されていった。彼の言葉、「世に生を得るは事を為すにあり」「業なかばで倒れてもよい。そのときは目標の方角にむかい、その姿勢で倒れよ」は私の座右の銘でもある。

 いやあ、なんということであろうか。私は巡り会ったのだ。坂本竜馬の末裔に。坂本竜馬自身は子供を残していないので、正確には坂本竜馬の血族か。出会いは、北大の北キャンパス、創成研究機構でおこなわれたパーティーだった。「うーむ、これはただ者ではない。」というのが第一印象。話す内容も、「僕むかし格闘技やってたんっすけど、M(某有名K-1戦士)のローキック、まじヤバイくらい痛いです(Mの友人だそうな)。」とかなり怪しい。つい最近まで腰に届くような長髪で、「北大の卑弥呼」と一部では有名だったらしい。でも、顔に何とも憎めない愛嬌がある。しばらく飲み交わしたあと、彼はとろんとした目をしながら打ち明けた。坂本竜馬の末裔だと。そう言われてみれば、確かに。血のつながりをvividに感じる。よく見てみると、とまったハエもからんでしまいそうなくせ毛だ。坂本竜馬もかなりのくせ毛だった。そして、酒を飲んで興に乗ると、音程の外れた歌を歌いながら(歌はかなりひどい)、訳の分からない即興の踊りを始める。坂本竜馬も、酒宴でよく土佐の踊りを踊ったとか。いやあ、これは面白い男だ!
 坂本氏は、侵略的外来アリの研究で、原産地の南米にも訪れるというかなり興の深い研究テーマに没頭している。アリはご存じの通り、誰でも知っている昆虫だが、非常にバイオマスが高く(地上生物の1/4とか)、数が多い雑食性捕食者として生態系で多くの役割を担っている。その中で、元々いたのと違う生態系に外来種として入りこみ、捕食者として生態系を崩すのみならず、在来のアリを駆逐するものを侵略的外来アリと呼ぶ。中でも特に被害が大きい物がアルゼンチンアリ、ヒアリ、アカカミアリだ。ヒアリ、アカカミアリはまだ日本未侵入な種だが、アルゼンチンアリはすでに侵入している。坂本氏は、すでに日本に侵入したアルゼンチンアリの防除に取り組むと共に、ヒアリ・アカカミアリの侵入阻止に向けて有益な手段がないかを原産地および他の侵入地の研究者と連絡を取り合いながら続けてきた。東大のプロジェクトチームと共同で取り組んだのが、道しるべフェロモンを逆用した防除である。アリが使う餌場への道標を、より高濃度な人工物により混乱させればアリは餌を採れなくなる。そうした戦略を室内実験からはじめ、ついに横浜で侵入個体群を壊滅に限りなく近い状況に追い込むことに成功した。坂本氏は、これまで数多くの海外・国内の研究機関と研究協力体制を強めてきた。これらの仕事の中で、色々と癖のある人同士を結びつけることに関わってきた。薩長同盟を取りまとめた竜馬の血がここにも生かされているのかもしれない。
 坂本家の血筋を引く祖父は軍医になり土佐を離れた。父は当時の難関のフルブライト奨学金をとり、東工大の教授。坂本君本人は自らの興味の赴くままに独自の道を歩んでいる。残念ながら、この春、蝦夷地を離れて江戸に向かわれるとか。坂本君。君と飲んで語り合った様々なこと。忘れないよ。約束したようにいつか一緒にギアナ高地に行こう。
 別れ際に彼ときつく抱擁を交わした。竜馬のくせ毛と激しい鼓動を感じた。熱く、ユニークで、おもろい男だった。

 

updated : 2012/03/27