menu

YASUの呟き No. 13

ヤスラボ流 プレゼンテーションの流儀

ラボメンバーのプレゼンテーションの指導をする機会が多々あるが、それぞれの学生に毎回同じことを繰り返し話すことに少し飽いてきた。そこで、僕が常々指導していることをまとめて記したいと思います。ヤスラボの学生は、プレゼンの用意をする際に以下に記載されていることに留意して下さい。プレゼンテーションには様々なスタイルがあるので、絶対的に正しいやり方というものはないと思いますが、ヤスラボに所属している間は僕のスタイルを踏襲して下さい。

1) プレゼンテーションの際の心得

i) 聴衆を満足させる
プレゼンテーションの一番の目的は、聴衆に自分の研究内容をしっかりと伝え、いい印象を持ってもらうことです。ですから、自分を満足させるのではなく、聴衆を満足させることが一番の目標です。これをはき違えては絶対に駄目です!
自分が苦労して作り出したデータをなるべく多く話したい。そこでスライドを多く作って、早口で何とか全てのデータを時間以内に話しきり、「自分の仕事を全部話せてよかった」なんて満足していませんか?そんな自己満足はくそくらえです!聞き手は、早口でポンポンと話しまくるあなたに途中からついていけなくなってしまったかもしれません。トークの意義なしですね。また、聴衆が理解できないような難しい話を得意気に話し続ける人を時々見かけます。最悪ですね。
私の恩師の高井義美先生がよくおっしゃられていました。「聴衆の8割がしっかりと理解できるトークをしなければならない。」と。聴衆は自分の研究分野の専門家か、あるいは分野外の研究者か、はたまた一般の方が多く混じっているのか。聴衆に応じてトークの内容を柔軟に変えていく必要があります。自分ではなく、聴衆を満足させる。そのことをしっかりと胸に刻んで下さい。

ii) 心構え 楽しく、生き生きと話す。これも重要なポイントです。「自分の研究の面白さを分かってもらいたい!」という強い欲求を持つこと。生き生きと話す人を見ると、「この人、本当に自分のサイエンスを楽しんでいるのだなあ」と聴衆までポジティブな気持ちになることができます。できるだけゆっくりと、大きな声で話しましょう。
多くの聴衆の前で話す時は緊張してしまいますよね。そんな時は、「こんなに多くの人に向かって話せるなんて、人生にもそれほどない素晴らしい機会だ。折角のこの時間、思い切り楽しもう!」と呟いて、笑顔で聴衆を見渡して下さい。トークの時にはとにかくポジティブな気持ちになることが大切です。それでも緊張が解けない時は、「戦争じゃないので、失敗しても死なへんし!」と呟きましょう。気持ちがスッと楽になるでしょう。

iii) しっかりと準備をする
15-20分くらいのトークであれば、必ず原稿を作りましょう。「あー」「うー」「えーと」の連発は(話し手は気がついていないことが多いが)とても耳障りだし鬱陶しいものです。原稿を何回も推敲することで、より洗練されたトークになっていきます。話が流れるようで引き込まれるトークは、演者が練りに練った文章を周到に準備していることが多いです。学生の分際でアドリブで話そうと決してしないように!!
原稿を作る際には『話し言葉と書き言葉の違い』に注意しましょう。書き言葉と違って、「同じ表現や言い回しを繰り返し使ってもくどく感じない」のが話し言葉の特徴です。また、論文などは、分かりにくい箇所があると読み直すことができますが、トークでは聴衆が聞き返すことができないので、難解でない平易な言葉を選ぶようにしましょう。あまり話し慣れていない言い回しは避けて、自分が話しやすい言葉を選びましょう。
原稿の棒読みは絶対にしないこと!学会によっては演壇上のコンピューターの関係で発表者ツールが使えないこともあります(トークの直前に発表者ツールが使えないことを知ってパニックに陥った学生を見たことがあります)。しっかりと練習して、スライドごとに話すべき点を覚えていきましょう。大切なことは、原稿をそのまま暗記するのではなく、スライドを見ながら話すことを頭に叩き込むことです。スライドに話す文章を書いておくと(タイトルやconclusionなど)、覚えることが少なくてすみますね。

iv) 伝えたいメッセージは何か
トークを通して伝えたいメッセージは何ですか?一番伝えたいメッセージをまず一つだけ心に刻みましょう。伝えたいメッセージが自分の中であやふやだったり、多くありすぎると、芯の通らない、あるいは軸がふらふらしている、印象の薄いトークになってしまいがちです。『今回のトークではXXXというメッセージを聴衆に届けるのだ』、と胸に手を置きながら呟いて下さい。一つの最も大切なメッセージの他に、サブのメッセージを2-3個持つことはOKです。話し手が「一つの最も大切なメッセージ(とサブの少数のメッセージ)」を自分の中でクリアにすることで、話し手の意思が聞き手にダイレクトに伝わるようになるでしょう(この鉄則は論文を書く時にも適応できます)。

v) トークの中でメリハリを付ける。聴衆に向かって話す。
トークにメリハリがなく、お経のように平板で淡々と流れる、盛り上がりのないものになっていませんか?(前の項で書いたように)トークの中で特に伝えたいメッセージが入っているスライドをまず数枚選びましょう。そして、それらを話す時には、少しゆっくりと、トーンを上げて大きな声で、(できれば身振りなども入れながら)聴衆に向かって語りかけるように話しましょう。そうすることによって、トークにメリハリが生まれ、聞き手も、「あっ、ここがこのトークの中で、大切なポイントなんだな」と分かってくれます。
また、なるべく聴衆に向かって話すように心がけましょう。コンピューターと(スライドが映し出されている)スクリーンだけに向かって話す演者を時に見かけますが、それでは聞き手の心に迫ることはできません。聴衆に向かって、しっかりと自分のメッセージを届けましょう。また、聴衆に向かって話すことによって、自分のトークにどのような反応を示しているかをつかみ取ることができます。トークが聴衆の心をとらえている時は、聴衆が引き込まれるように聞いている様が分かるでしょう。逆に退屈している人や寝ている人、首を傾げている人や眉間にしわを寄せている人が多いと要注意ですね。このようにトークをしながら、聴衆の様子からフィードバックを得ることは(ギャグがどれほど受けたかなども含め)、プレゼンテーションのさらなる改善のためにもとても大切です。

vi)ネガティブなことを話さない
日本人の謙虚さは美徳です。しかし、トークの時には(特に海外においては)過剰な謙虚さは害でしかありません。自分の能力やデータをネガティブに語ることは絶対に避けて下さい。「再検をとれないこともあるのですが」「私のテクニックはまだ定まっていないので、データはまだよくぶれるのですが」「このデータには生理的な意義はないのかもしれませんが」などなど。正直に話すことで、自信のないデータを出す罪悪感を薄めているのかもしれませんが、自信がないのであれば元々それを発表すること自体が問題でしょう。自分を貶めるようなコメントはしないように。(海外では特に)そのような態度は評価されないでしょう。
(注:ヤスラボ内での発表では、全てのデータを出してよいので、「データにまだ自信がない」「再検がなかなか取れない」など、正直に語っても全く問題ありません)

vii) 質疑応答の心得
質疑応答の際に、きつい質問を受けることを恐れて、ディフェンシブになりすぎている演者を時に見かけます。折角、聴衆が色々と質問をしてくれているのに、しっかりと自分の中で質問を消化せずに尻込みし、表面的な対応で終わってしまう。質問をした側から見てもまともにコメントが帰ってこないのは気分悪いし、トークが台無しになってしまいます。
まず大切なのは、思い切りポジティブな気持ちで質疑応答に臨むことです。「さあ、どんな質問が来るのかな。ワクワクするなあ。楽しみだなあ。」という心持ちで、身を前に乗り出して質問に対応しましょう。質問をしてくれている方をしっかり見つめて、時に頷きながら、真摯に質問の内容をまず自分の中で受け入れましょう。
質問の内容が分からなかった時には、「すいません、質問の意味がよく分からなかったので、もう一度御願いできますか?」などと聞き返しましょう。何度聞いても分からない時は(的外れの質問や訳の分からない質問は稀ではありません)、「おそらくXXXについて質問されていると思うのですが」などと言って適当に答えるか、「すいません、やはり質問がよく分からないのでまた後でディスカッションさせて下さい。」と逃げましょう。最悪なのは、(どう答えるべきか分からずに)固まって無言で立ち尽くしてしまうことです(質問者も座長も困ってしまいます)。少し考える時間が必要な時には、「なるほど。それについては、あまり考えたことがなかったですね。面白いポイントだと思います。フムフム。」などと話しながら、考える時間を稼ぎましょう。

答えるときは、落ち着いてゆっくりと質問者に向かって語りかけましょう。質問をしてくれるのは、トークに興味を持ってくれているからです。その感謝の気持ちを忘れずに、誠実にしっかりと答えましょう。一見、変な質問に見えても、これまで自分が考えたことのなかった視点を提供してくれていることもあります。慌てず、冷静に、そして生き生きと。

研究の競争相手あるいは(何についても)批判的な研究者が、「君のデータは間違っていると思う」「そのデータは、真実を反映していないのではないか」などとアグレッシブなコメントをぶつけてくることがありえます(特に海外の学会で時々見かける)。戦うのです!決して負けてはいけません!その場を逃れるために、「あなたの言う通りかもしれません」などと絶対に言わないこと!君の敗北は、ヤスラボの敗北なのです。筋の通らない批判や訳の分からないコメントには、冷静にしっかりと反論しましょう。決して屈服した形で終わらないように。

大切なことは、普段から色々なことを考えて、様々なアイデアや情報を身につけておくことです。質疑応答は研究者の実力がモロに出ます。もしあなたが、質疑応答が下手なのであれば、基本的に実力不足、コミュニケーション不足です!日頃から、周囲の人とディスカッションを積極的におこなうように心がけましょう。

2) スライドの作り方

i) Simple is the best!
次のスライドに移る時に、画面がグルッと回る(あるいは粉々になり消えてしまう)スタイルのトークを時々見かけます。僕は、基本的にそのようなスタイルは好きではありません。それによってデータに集中できず、気が散ってしまうように感じてしまいます。「データが面白くないから、そんなことで胡麻化そうとしてるんとちゃうんかい」なんて思ってしまいます。スタイルの奇抜さではなく、データの質の高さで聴衆を惹き付けるようにしましょう。

ii) One message in one slide
一つのスライドに、ゴジャゴジャといっぱいパネルを載せるのを僕は好みません。そのスライドで何をメッセージとして伝えたいのかがどうしても分かりにくくなってしまいます。一つのスライドに、一つのメッセージを。二つのメッセージになってしまう時は、極力二つのスライドに分けるようにしましょう。また時に、論文のFigureをそのまま使って、a, b, c, d, e, fなど多くのパネルが並んでいるスライドを見かけることがありますが、「手抜きやな」と思ってしまいます。
もう一つの非常に重要な鉄則は、「話さないことは、スライドに書かない」あるいは「スライドに書いてあることは、必ず話す」です。聴衆の多くの人(特に、実力のある先生方)は、演者が話していることを聞きながらも、スライドを見ながら自分で理解しようとします。スライドに書いてあることを見て、「これどういう意味かな?」と疑問を持ち、その説明を待っていて、結局それについて全く言及がなかった時、「ここはどういう意味やねん!!トークに関係ないんやったらスライドに載せんなよ!」とフラストレーションがたまってしまいます。Review articleから何らかの図を転載する時にも、トークに関係のないパーツは隠すなど、気をつけて下さい。「関係ないこと、話さないことはスライドに載せない」、十分に気をつけて下さい。
また、それぞれのスライドに、タイトルとconclusionが記載してあると、聴衆が話をフォローしやすくなります。さらに、話す時にもそれを見ながら話すことができるので、覚えなければならない文言が減って楽になります。

iii) styleを統一する
話す内容にしても、スライドにしても、ピシッと一本の軸が通っていることが肝要です。タイトルやFigureの文字のフォントやサイズは統一されていますか?Figureのパネルの大きさにばらつきはありませんか?色使いがスライドごとにバラバラになっていませんか?

3) その他(番外編)

i) どんなトークでも全力を尽くす。絶対に気を抜かない、手を抜かない。
以前、僕がベルリンでポスドクをしていたときの出来事です。実験手技を学びに、3週間ほどロンドンのImperial Medical Collegeに滞在したことがありました。滞在が終わりにさしかかった頃、共同研究でお世話になっていたグループリーダー(Dr. Vania Braga)から、「ヤスの今やっている研究内容はとても面白いので、研究所でセミナーをしてくれませんか?」と頼まれました。セミナーの準備は全くしていなかったし、限られた時間の中で忙しく実験していたので、かなりきつかったけれども、一生懸命にスライドを作って、トークに臨みました。ギャグ(後述)も大受けだったし、セミナーの反響はなかなかいい感じでした。すると、セミナー終了後に、研究所長の先生が寄ってきて、「少し話がしたい」と。研究所長室に招かれて、コーヒーを飲みながらいきなり切り出されました。「素晴らしいトークだったよ。Vaniaからも、君はとても優秀なポスドクだと聞いている。どうだい、私たちの研究所でグループリーダーとして独立してみないか?」と、いきなりのジョブオファー!全く予期せぬ出来事でした。最終的には、その時すでにアプライしていたMRC LMCB研究所からより条件のいいポジションを得ることができたので、このオファーを受けることはなかったのですが、「一つのトークから人生が変わることがありえる」ことを痛感した出来事でした。
この他にも、トークをした後に、聴衆の研究者から共同研究を申し込まれ、研究が大いに発展したこともありました。また、僕の話を聞いた学生が、「ヤスラボに是非加わりたい」とメールをくれたこともありました。
どんなトークでも、発表の機会を与えて頂いていることに感謝して、全力を尽くして下さい。サイエンスの輪が、様々な形で広がっていくことでしょう。

ii) ギャグ
ギャグは奥深く、難しい。

これも、ベルリンでポスドクをしていたときの話です。当時私は、Walter Birchmeier教授のもとで、E-カドヘリンに結合し、細胞間接着を制御する分子を同定することに成功し、その分子をHakai(強発現により細胞間接着が破壊されることから)と名付けました。ある日、ボスのWalterから、「Hakaiで研究費を申請したところ、書類審査を通過し、ヒアリングに呼ばれた。かなり巨額な研究費なので、ラボとしても是非獲得したい。審査員はinternationalなパネルだから、英語で発表なのでお前がプレゼンテーションをしろ」と。ラボの浮沈をかけてポスドクがプレゼン??!Walter曰く、「全部お前に任せるから好きなように話してこい」と。必死のパッチで30分の発表の準備に明け暮れる日々。そして、ヒアリングの2日前にWalterから、
「ヤス、準備はできたか?」と話しかけられた。
「大丈夫だと思います。」
「どんなギャグを使うんだ?」
「ギャグ?」
「Of course!」
巨額な研究費のヒアリングでギャグを言うの??!!
「いやあ、全く考えていません。」
Walterはニヤリと笑い、「俺が考えてやる。」

彼から伝授されたギャグは、まさに一発ギャグ。
“…… We have found that this molecule disrupts cell-cell adhesions. So we name this molecule as……”
と言ったところで、ハーッと大きく息を吸い込んだ後、”Hakai!!!”と叫びながら、空手でカワラ割りをするように手刀を振り下ろす。

マジっすか?それをヒアリングで?これはきつい!

そしてヒアリング当日。Walterから、「しっかり審査員から笑いを取るように」と厳命。こういう時は、照れたら負けや、開き直ってやりきるしかない、と自分に言い聞かす。
Internationalパネルは全員で15名ほど。さすがに、厳粛な空気が流れている。しかし、意を決してトークの途中で、練習通り”Hakai!!!”と叫びながら真空カワラ割り。シーン。一瞬の完璧な静寂。「やらかしてしまったか……」と思ったのも束の間。大爆笑!審査員たちが腹を抱えて笑っている。その時の快感を忘れることができません。結局、研究費は無事に獲得することができました(ギャグがどのくらいそれに寄与したかは分からないが)。味をしめた僕は、その後も、MRC 研究所でのジョブトーク、Keystone meeting、Gordon meetingなど様々な発表の機会に同じギャグをかましましたが、常に成功(大爆笑)を得ることができました。まあ、これはかなり色物のギャグですが(できればもう少し知的で、センスのあるギャグが言えればなあ)、実際にギャグで聴衆の笑いが取れると、演者と聴衆の間に一種の一体感が生まれ、ポジティブな空気が流れます。

大切なことは、スベることを恐れずに堂々とやりきること。照れや羞恥心を捨て去り、大きな声でゆっくり分かりやすく話すことです。と言いながら、僕もこれまでのトークで(他のギャグでは)何回スベッたか数えきれない。ギャグの後の静寂、いやあ思い出すのも恥ずかしい。でもまあ、そのような負の経験は気にしないことやね。

ただ気をつけましょう。海外では、日本で若干通じる「自虐ネタ」(特に同僚や家族をからかうようなもの)は全く通用しません。また、国や地域によって、聴衆に受けるギャグも変わってきます(イギリスではちょっとひねったユーモアが好まれる、など)。

ギャグは難しい。本当に。だから、ラボのメンバーに必ずトークで使えとは言いません(僕も常には使いません)。でも、ギャグが受けた時の快感。聴衆との一体感。これはたまりませんわ。迷った時は、僕に相談して下さい。以前、Walterが僕にしてくれたように、ギャグを授けてあげましょう(スベるのはあなたですが)。

updated : 2015/06/08